ニッチ市場の熱処理技術でナンバーワン企業を目指す。
ニッチ市場を席巻するサーマルの熱処理炉。
株式会社サーマル
日本の高度成長時代。金型製作はモノづくり企業の花形の1つでした。細胞分裂のように、中小企業の職人が独立、夫婦で営むような零細の金型製作工場が数多く誕生し、その金型の熱処理を請け負う金属加工・熱処理会社も、多くの受注で繁盛する日々を過ごしました。工業用加熱装置や金属熱処理炉の設計・製造販売を手掛けるサーマルも、そのような時代の恩恵を受けた会社です。当初は、金属加工・熱処理会社への納品を皮切りに、やがては、コンパクトで低価格の熱処理炉を発売。金型製作メーカーの多くが、小ロット・小型の金型用に導入したことで、サーマルの熱処理炉は、瞬く間に市場を席巻する大ヒットとなりました。サーマルがニッチ市場において、ナンバーワン企業となったのです。
海外の電子部品メーカーから来たメール

二木 猛社長
「これは何だろうね?」最初、海外の電子部品メーカーからの商談の申し込みメールが来た時に、書かれている内容を二木社長は疑いました。
「そのメールには、こんなことが書かれていたようです。『私達は、ある電子部品を造っているメーカーですが、日本国内の電子部品の工場で熱処理炉を調査したところ、どの工場でもサーマルの熱処理炉を使っているようです。そこで、貴社の製品を当社の工場でも生産に採用してみたい。』ってね。営業活動をしていないにも関わらず、なぜ、こんなメールが来たのか?最初は営業担当のいたずらだろう位に考えていました。確かに、電子部品のある分野では、私たちの製品が相当強いことは知っていました。それは、そのように製品開発を進めてきたからです。でも、そのことで、海外のメーカーから直接商談が舞い込むなんていうことは、当時は考えられなかったですね。何回かのやり取りを経て、商談は成立。製品を無事納入することができました。」サーマルの『ニッチな市場でナンバーワン・オンリーワンを目指す』という企業戦略が世界に認められたのです。
国内の研究・開発・実験分野へコンパクトな熱処理炉を提供しています。
二木社長は、常日頃から社員の皆さんに対して言われる口癖があります。それは企業理念でもある『小さくてもナンバーワン企業を目指す』ということにあります。
「当社では、常に他社と同じ土俵で勝負はしないという戦略をとってきました。その代表例としては、金型製作メーカー用として、小型で他品種少量向けの低価格な金型用の熱処理炉を開発・販売しました。これは、その当時、金型製作メーカーが爆発的に増えていく中で、大ヒットとなりました。また、最近では、量産品といわれるモノは、中国や韓国等人件費の安い海外で生産する代わりに、そのための研究・開発拠点は国内に残すというメーカーが数多くみられます。そこで、求められるのがコンパクトで高効率な熱処理炉。そこで、当社独自の技術を積み上げた熱伝導性の良い水素ガス雰囲気炉を開発しました。おかげさまで、非常に好調な販売を辿っています。」
日々の加工を通じて、金属熱処理のソフト・ハードの追求をしています。
熱処理炉を主力製品とするサーマルにおいて、製品とともに重要なのが、実はソフト開発と二木社長はおっしゃいます。「金属熱処理でお客様にとって重要なのは、炉にいれる品物に対してどのような熱処理をしていくのか、そのための温度管理、雰囲気管理なのです。ですから、炉の中でどのような熱処理を行うか、いわばソフト開発も炉の開発と同様に重要です。それは、日々の熱処理を通じて追求していきます。当社では、自社開発した炉を使って、熱処理加工も受注しております。それは、生きた教科書となりますね。どのような加工が求められているのか、そのための温度管理、雰囲気管理とはどのようにすべきか、そのための炉として求められるハードはということで、加工を通じて得るものは多いですね。」
「特に大変なのが雰囲気炉です。ガスの雰囲気炉の場合には大抵大気圧よりも高い圧力の中で熱処理を行いますし、真空雰囲気炉の場合は、逆に減圧される。炉全体は熱と共に伸び縮みしますが、さらに圧力の影響も加味しなくてはならない。熱処理炉の最も技術的に困難な点は、品物に必要な熱処理のソフトを開発し、それに耐えうる炉の構造にしなくてならないという点なのです。」
熱処理炉の開発は、お客様である熱処理業者、ひいてはエンドユーザーがどのような素材を求めているか、そのためにはどのような熱処理が必要なのかソフトを開発し、その実現のためのハード(炉)のスペックをくみ上げていくという作業なのです。
熱処理炉開発の中で偶然生まれた『メタシリー』もオンリーワン商品です。
『メタシリー』
「当社の新製品の1つに純アルミ繊維焼結吸音材『メタシリー』があります。熱処理炉の開発・販売を手掛けるサーマルがなぜ吸音材を開発したのと、よく質問されますが、これは、ほぼ偶然に生まれたというのが本当のところです。」『メタシリー』について二木社長は説明します。「アルミ繊維を熱して押圧したところ焼結させることができました。従来は、アルミ繊維の燒結という現象はあまりみられないのですが、当社の熱処理炉開発部隊で成功したのです。出来た製品を検査してみると吸音効果に優れており、しかも電磁波の遮断効果等、従来の吸音材でよくあるガラス繊維の製品等よりも高機能なものだということがわかりました。しかも、ガラス繊維だと繊維が飛散して環境への影響も懸念され、廃棄処理が大変なのに、これはそのような心配もありません。環境にやさしいということもあり『発明大賞』を受賞するに至ったのです。」
早速製品化に踏み切ろうとしたのですが、販売に当たっての課題もありました。「焼結させるということで、ガラス繊維の吸音材に比べると加工が1段階多いこと、アルミ繊維という価格の高い素材、そして何よりも、加工のロットがまだ少なく、単価を下げることができません。ですので、吸音材というだけではだめなのですね。もっと、高級なコンサートホールとか、防音+ビジュアル的なもの、医療設備で電磁波遮断等も含めた高機能な環境が求められる所などいくつか販売先の構想はあるのですが、具体的な用途開発はこれからです。じっくりと育てていきたいですね。」
森林組合の間伐材処理の相談を受けたことが、環境ビジネス参入のきっかけでした。


『炭っ子』
「最近、どの森林でも間伐材処理に困っていると聞きます。当社工場の近くの森林組合からそのような声を聞きました。それが、環境ビジネス参入となる炭化炉『炭っ子』の開発につながりました。」二木社長の熱弁は続きます。「炭っ子は、生木を燃焼させないで、熱分解という方法で、最終的には、カーボンのジャングルジムという炭に変換してしまう装置です。最初、炉の入り口でたき木を完全燃焼し、炉の中の酸素をなくし、大気中の窒素のみにした高温雰囲気状態して熱分解を行っていく。燃焼させるのではなく、酸素を燃焼させた後の高温窒素雰囲気炉の中で、植物を熱分解するわけです。」
「最初は、いろんな企業が、炭ビジネスへの参入として、『炭っ子』を導入して頂きました。また、教育活動の一環として、福祉施設や学校等で備品としてご購入頂きました。」しかし、この炭化炉にも、課題がありました。
「炭をたくさん造ることはできるのですが、それを販売する・消費するシステムがない。炭を造るだけでは、ビジネスとしては成立しづらいのです。そこで、この炭を燃料とした地産地消の小型ガス発電システムの開発を進めています。これができれば、重くて処理に困っていた間伐材が、軽くてしかもエネルギーとなります。また、炭化する過程でのガスもバイオマス発電に使用することができます。エネルギー自給率の向上につながります。なんとか実現させたいですね。」二木社長の、熱処理を起点としたビジネス展開に終着点はないようです。
熱き魂、熱き愛情、熱き力で、次代のサーマルを造ってくれる人に会いたい。
最後に、二木社長に、どのような人がサーマルにふさわしいかを尋ねました。「当社の製品・加工は、ほとんどが受注生産であり、オーダーメイド製品・加工です。それは、規格品を大量に販売するというものでもなく、また、決まったテーマの開発に携わるわけでもありません。ですから、当社の企業スローガンにもある、熱き魂、熱き愛情、熱き力をもってお客様・ものづくり・社会に対峙することができる、自立した人材であることが大切だと考えています。それができる人であれば、次代のサーマルを造ってくれると思うのですね。」
熱きビジネスをひた走るサーマル。共に走ってくれる若人を二木社長は心待ちにしながら、今日も新たな研究開発へ、市場開拓へ、用途開発へと奔走されています。
先輩メッセージ
競合の価格戦略を超える提案ができる、サーマルには自由に仕事ができるステージがあります。
営業部
森元 義晃 さん
営業部 森元 義晃さん
私がサーマルに入社したのは、最初の面接の時、「ナンバーワンよりオンリーワンになるんだ」という二木社長の言葉に共感したからです。しかし、その道のりは、決して平たんなものではありません。なぜなら、オンリーワンということは、お客様に当社の熱処理炉の良さ、価値を理解して頂くことがスタートラインであるからです。
私は営業部に所属していますが、当社の場合、完成した製品をセールスするのではなく、お客さまニーズに合わせた熱処理炉を、提案し販売していくという営業活動です。そのニーズとは、単なる加工機械の設備投資というものから、熱処理業者に熱処理を外注していたものを内製化し、自社の技術的な蓄積や進歩を目指したいというものまで様々です。そのための勉強は欠かすことができません。その結果、自分の提案が受け入れられて受注につながった時の達成感は何物にも代えがたいものがあります。
最近では、価格面で圧倒的に不利な条件が、自ら提案した企画書によって、その性能・機能が認められ、お客様の担当から社長に稟議書を挙げ、その結果受注につながったこともありました。それも、入社してすぐに仕事をどんどん任せていくという会社の雰囲気・方針があるからだと思います。しかもやり方をあまり限定しないで、自分達で考えながら進めていくことがほとんど。責任もありますが、自分が自由に動くことができるステージがある、非常にやりがいのある仕事ができる会社、それがサーマルの魅力です。
先輩メッセージ
技術と教育と環境のかけ橋になる「炭っ子」に夢中です。
営業部
大澤 広和 さん
営業部 大澤 広和さん
私の就職活動はちょうど第一次就職氷河期で、機械工学科出身であったのに関わらず、畑違いの業界を転々とせざるを得ませんでした。そこに、サーマルの求人情報が飛び込んできたのです。モノづくり企業、しかも都心に近い場所で仕事ができるということから、すぐに応募しました。そして、営業部で炭化炉「炭っ子」を担当することになりました。
炭焼きのニーズは非常に高いです。代表的なものは、森林組合の間伐材、工務店等での使用済資材やゴルフ場等で刈り込まれた芝の処理です。炭化させることで重量が軽くでき、しかも木炭という燃料になるのが魅力だからですね。堆肥を混ぜて天然肥料して使うこともできます。しかし、それだけでは市場として大きくはなりませんでした。問題となるのはできた大量の炭の処理。そこで、この炭を活用した小型発電等、エネルギーの地産地消ビジネスへと展開を拡大していく予定です。
また、「炭っ子」は福祉施設や学校などの公共機関にも納入しました。小学生の炭焼き体験授業の講師等も担当しました。ある日、日光杉の炭化授業の時に、時間的に早めに終わらせたいという要望もあって、炉の入り口を早めに閉めてしまったところ、炭化が十分に進まず、一部生木のままになってしまったことがありました。そのことを聞き、クレームと思って電話をいれたところ、体験に参加して頂いた教員の方から「これは素晴らしい教材です」といってほめられたのです。「子供たちは完成品しか見る機会はないが、これはその進捗状況がわかる」と。
その時にありがたいなぁと感じたのですが、仕事をするうえで常に必要なのは、お客様とのコミュニケーションとそれを通じたニーズの把握にあるなということがわかりました。
このように技術と教育と環境の架け橋となれる炭焼きビジネスに、私は夢中で取り組んでいます。
先輩メッセージ
金属製品には全て熱処理がされている。 その加工を手掛けていることに誇りを感じています。
小川 直輝さん
小川 直輝さん
サーマルに入社した理由は、学校の卒業研究で材料研究を分野としてことからその専門的な知識を活かしたいという思いからでした。また、金属熱処理に関心があったことも理由の1つです。
現在では、お客様からお預かりした品物の熱処理加工をこなしながら、サーマルの熱処理加工・熱処理炉の研究・開発も担当しています。それは、どのような熱処理の方法がよいか、温度や雰囲気・作業手順等のソフト面の研究とともに、熱処理炉の改善・改良点の抽出とハード面の開発といったハード・ソフト両面です。日々の作業内容は地味ですが、それを通じて得られるものの大きさに、私は誇りを持って取り組んでいます。
皆さんが何気に使っている金属製品のほとんどのものに、固くしたり、柔らかくしたりするための熱処理が施されています。身近なものでは、包丁や刃物等の金物製品ですね。熱処理加工をしなければ、各々の金物製品は十分に使いこなすこともできませんし、十分な品質・強度を提供することもできません。熱処理の現場での作業を通じて、金属熱処理が社会に多大な貢献をしていることも実感しています。
最近、社内の最終納品の検査は自分が全て担当することになりました。それは、丹精込めて処理した製品が社会へ羽ばたいていくのを見送るようなものです。モノづくりに携わる「職人」の階段を登り始めた、仕事を通じで成長できた自分というものを実感しています。