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成功企業紹介

先端フォトニクス株式会社

高速大容量・低消費電力のデータ伝送で未来の光通信をリードする!小さなベンチャー企業の偉大な技術

高速大容量・低消費電力のデータ伝送で光通信に新風を起こす大学発のベンチャー企業

日進月歩のIT技術において、近い将来、「光配線があらゆる機器へ」(日経エレクトロニクス2011.7.11号)との予想も聞かれるようになった。しかし、光を建物内部のネットワークや通信機器内部の配線に導入するのは、そう簡単な話ではない。そこには技術的な問題があり、それらを克服しなければ、私たちはその恩恵にあずかれないのだ。

先端フォトニクスは、光通信技術の中でも、「光インターコネクション」という分野に長けた技術者集団の会社だ。彼らの技術は、光をこれまでになく身近なものにさせる、大きな可能性を秘めている。

大学発ベンチャー企業が生み出した世界初の技術

駒場オープンラボ
CCR棟

先端フォトニクスは、東京大学・中野義昭研究室から生まれた、大学発のベンチャー企業だ。中野研究室では、光半導体・光通信、そして光インターコネクションを研究していたが、光の可能性と技術の進歩にビジネスチャンスの萌芽を見て、2006年3月15日、先端フォトニクス株式会社を設立した。

光インターコネクションについて説明しよう。まずは、耳にする機会の多い光ファイバー通信との違いから。両者とも光の伝送技術であるが、光ファイバー通信は東京―大阪間、日本―アメリカ間というような長距離間で用いられる伝送技術であるのに対し、光インターコネクションは数cm~1mという近距離間で用いられる伝送技術である。そして、先端フォトニクスは、ルーターやサーバー内のプリント基板上(つまり近距離の)における光伝送の研究・開発を行っている。

一般的な光ファイバーを使った通信の場合、長距離を伝送されてきた光信号は、サーバーなど装置内の基板の端に到達すると、電気信号に変換される。その装置内では電気信号の伝達が行われることになるが(電気インターコネクション)、大容量のデータを伝送する場合、電気信号が基板内で順番を待ち、渋滞現象を起こすなどして、電力使用量が増える。すると、過熱を防ぐための空調管理も欠かせなくなり、装置内には多くの部品が必要とされているのが現状だ。

このような状況を打開すべく、先端フォトニクスは電気しか流れない基板に光を通そうと発想した。光ならば通信スピードも速く、高密度な配線も可能となるからだ。彼らは、基板内の配線位置や実装方法を工夫し、電気信号を光信号に変換するモジュールや光導波路を設計・開発。これにより、データは光信号のまま、同一の基板上あるいは異なる基板上のLSI(大規模集積回路)間を通信する。

この電気配線によるデータ伝送を光配線に変更する技術が光インターコネクションで、高速大容量かつ低消費電力のデータ伝送を実現させる技術として、注目を集めている。光インターコネクションがルーターやサーバー、スーパーコンピュータ内部で実用化されると、従来の電気配線に比べ、10倍の伝送容量を10倍の通信速度で実現し、消費電力に及んでは信号伝送部分で従来の80%の削減が可能となる。

現在、先端フォトニクスがターゲットとしているのは、通信会社や大手電機メーカー、スーパーコンピュータメーカーだが、いずれは家庭用パソコンへの搭載も視野に入れている。家庭内ネットワークに光インターコネクションが導入されれば、CPUとメモリ間、GPU間のデータのやりとりがストレスなく行われ、今までに見られなかったような高精彩の3D映像が、家庭内でも楽しめるようになる。

光導波路埋込光配線実装基板(左)とそれを組み込んだサーバー(右)
光導波路埋込基板(左)とそれを組み込んだプロトタイプサーバー(右)

従来の延長線上では成し得ない技術

取締役CTO 宋学良 氏
取締役CTO 宋学良氏

光インターコネクションの開発は、「従来の技術の延長線上ではかなわなかった」と、取締役CTO 宋学良氏は言う。この技術には、プリント基板上で光配線を高密度に設置した上で、サイズそのものを小さくすることが求められるが、そこには、従来の考え方にとらわれない新しいアイデアが必要だった。

例えば、先端フォトニクスの光インターコネクションの特長のひとつとして、ミラーや集光レンズが存在しないことが挙げられる。通常、光信号と電気信号の両方を扱うプリント基板では、光電変換モジュールで電気信号を光に置き換えた後、その光をプリント基板の外部に設けた光導波路に送り出すために、ミラーや集光レンズが必要とされていた。しかし、この「常識」に彼らは疑問を投げかけた。ミラーや集光レンズがなければ、組立工数や部品点数が減少し、小型化も実現できる。シンプルになればコスト削減も可能だ。

それから、先端フォトニクスの技術者たちは、ミラーや集光レンズの働きを補わせるものについて、思考の壁と技術の壁に何度もぶちあたることになる。そして、光電変換モジュールの設置場所を変えたり、光導波路をプリント基板内に埋め込んだりして、その方法を発見したのである。

光インターコネクションで一番困難なのは、光軸合わせだった。光軸合わせとは、発光素子から出た光が光配線に入るとき、光配線から出た光が受光素子に入るときのいずれにおいても、光の道筋をブレなく導かなくてはならないのだが、そのためには基板上の発光素子と光配線部材との精密な位置合わせが不可欠となる。その精度は10ミクロンのズレも許されない。これを100ミクロンという作成精度のプリント基板上で行わなければならず、この光軸合わせをいかに量産レベルにまでもっていくかが、ボトルネックとなった。

検討に検討を重ねた結果、光をモニタすることなく搭載させる方法(パッシブアライメント)の採用を決定するが、それには世界にない半導体生産装置の開発が必須だった。先端フォトニクスのような小さなベンチャー企業にとって、その設備投資は大きな負担であり、社内でもさまざまな議論があったという。しかし、先端フォトニクスの使命――先端技術を実用化させて新しい市場を創造する――のもと、装置の購入を決断。光軸合わせ用に転移させる技術を開発し、社内で装置に改造を加えていった。何度も試行錯誤を繰り返し、遂に開発した生産設備を使って光配線基板の製造に成功する。これらの技術をリードしていることから、世界でも先端フォトニクスがトップランナーだと言える。

ちなみに、同社では、光信号がうまく通ったときにオシロスコープ(測定機器)のモニタに映る曲線が、まるで人が目を見開いたような形になることから、「アイ(eye)が開く」と称している。大きなブレークスルーとなったアイ(eye)が開いた瞬間、宋氏は思わず隣にいた人と抱き合ったという。会社設立からもうすぐ2年になろうとしていた頃のことだった。

「アイ(eye)が開く」モニタ画面(左)。光がうまく通過しない場合、波形の線が二重・三重になり、アイの開きが小さい(右)
「アイ(eye)が開く」モニタ画面(左)。
光がうまく通過しない場合、波形の線が二重・三重になり、アイの開きが小さい(右)

オープンな環境がもたらす自由な発想

管野元太さん
管野さん

先端フォトニクスの新しい発想とチャレンジ精神は、「大学というオープンな環境にあるからこそ、醸成されているかもしれない」と宋氏は言う。また、設備面でも産学連携の恩恵は欠かせない。東京大学の研究室には高速測定器や高価な測定器、クリーンルームなどが揃っており、大学との共同研究を通して、設備にアクセスできるのは大きなメリットだ。

先端フォトニクスは、年齢も国籍もさまざまで、バラエティーに富んだ、まさにダイバーシティな職場と言える。ここでは、若い人の活躍が目立つ。管野さんは、光モジュールの開発を担当しており、最近は、光配線基板の中での光信号と電気信号を変換する部品の信頼性試験を行っている。

管野さんの仕事は、顧客のオーダーを受け、それに見合った材料の選択、基板の配線の設計を上司と相談しながら考えることから始まる。実際にモジュールの組み立てを行ったり、組み立てやすいよう作り方を考えるのも管野さんの役目だ。もちろん、積極的に自分の考えを言うし、言わなければいけない職場だという。

管野さんに仕事のおもしろみを聞いた。「私は装置の開発に携わっていて、購入する前の検討段階から、実際に装置を改造して新たな目的のために作り上げたことがあります。仕事の始めから終わりまで、トータルで見られるのでやりがいを覚えます。また、最近行っている信頼性試験の仕事では、部品のほんの少しの違いで壊れたり、壊れなかったりするのですが、その違いに気づけるかどうかというのも、この仕事の醍醐味ですね」

先端フォトニクスはまだ新しい会社だが、管野さんのような若い人が活躍できるフィールドがきちんと用意されている。会社の成長とともに自身も成長できる、というのも魅力の一つかもしれない。

研究室の様子
研究室の様子

「Go Ahead!」のスピリットを忘れずに

ところで、先端フォトニクスは会社設立までの準備期間として、3年もの月日を要している。「よい技術が必ずしもビジネスになり得るとは限りません。当社の場合、光インターコネクションの素晴らしさはわかっていても、それがビジネスとして成り立つかどうか十分な時間をかけて検討されました」と、宋氏は話す。先端フォトニクスでは、技術者だけでは見失いがちなビジネス的観点をマネジメント経験者がきちんとサポートする体制を会社設立当初から重視してきた。会社設立と同時に、同社の技術の基本特許を出願したことも、経営サイドからの要請によるものだという。

宋氏は、マネジメント経験者と技術者集団の両輪による会社運営が、先端フォトニクスの今の発展にあると評する。「技術者だけだとどうしても技術で考えるところがありますが、幾度も社長に軌道修正していただきました。大きな判断が必要になるとき、社長のビジネスに対する感性は素晴らしいと思います。技術者も安心して研究・開発に打ち込めます」

また、営業担当者が不在なのも、先端フォトニクスの特徴だ。これについては、「優秀な営業担当者であれば『早く売り上げたい』と思う反面、優秀な技術者であればあるほど『完璧なものを作りたい』という気持ちが強く両者が衝突してしまいます。そこで、社内がまとまらなくなると、売れるものが出来なくなる。当社の技術はこれからの技術です。新たな技術の価値を高めるために、先ずは、完璧なものを作る事に注力すべく、開発技術者のみの集団に特化したのです」と、宋氏は説明する。
従って、先端フォトニクスでは、お客様との交渉は、直接、技術担当者が行っている。顧客が求めるスペックに対してダイレクトに説明ができるし、何より、顧客ニーズを肌で感じることができると、技術担当者の満足度も高い。

最後に宋氏に、先端フォトニクスの成功とは何か、と尋ねた。
「私たちは東京大学発のベンチャー企業として、大学発の新しい技術を社会に提供していくという使命があります。新技術によってどんどんと新市場を創造し、社会に提供していく、提供し続けていくことこそが弊社の成功だと思います」

先端フォトニクスの社是は「Go Ahead」。一歩でも前へ突き進むチャレンジ精神を尊ぶ――とある。それは、光伝送の最も優れた特徴である直進性に倣い、光のように真っすぐに突き進むチャレンジ精神だ。そう遠くない未来、私たちはパソコンやゲーム機器、デジタル家電などで、先端フォトニクスの光インターコネクションに出会うだろう。世界にも誇れる技術の影に、小さなベンチャー企業の「Go Ahead」のスピリットが生きている。